眠れぬ夜をあなたと
act.1 私の安眠枕
act.1 私の安眠枕

***
少し離れた場所からみる街の灯りは、キラキラしたラメみたい。

粒が小さすぎで、霞んだ目がちかちかしてくる。

あの街の住人達は入れ替わりが早いけれど、それでいて変わらない光で輝き続けている。

ガラス窓の向こう側、あの眠らない街とずっと一緒に起きていられたら、夜を長く感じることなんてないのに。

それでも体は、心と裏腹な反応をしめしていた。

頭はアルコールでできたモヤがかかり、身体は鉛が詰まっているかのように酷くだるい。

……限界。

脳は『眠れ』の信号を出しまくっていても、それがなかなかやって来ないのだ。

私はダブルベッドのはしに腰掛けて煙草に火をつけ、テレビのリモコンをいじくった。

先日、27歳の誕生日を無理矢理祝わってくれた叔父から届いた60インチのテレビが、途中まで観ていた古い洋画の続きを映し出す。

オレンジの柔らかい色を出すルームスタンドが、画面の中のモノクロの世界に移り込んで、別の色をつけていた。


「……美湖(みこ)さん」

声の主は、私が着替えている間にシャワーを浴びたようだ。

足音を立てない猫のように、ベッドを挟んだ私の背中越しに立っている。
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