眠れぬ夜をあなたと
定期的に暗証番号を変えられるたび、数字の羅列を覚えるのは面倒だ。本当は、このセキュリティおたくっぽいところを通り抜けるくらいなら、店に顔を出して叔父を呼んでもらった方が楽だと思う。

でも今夜は、わざわざ叔父から場所指定で呼び出された。私がオフィスへと出向く形で。


エレベーターを降りて、叔父のオフィスのドアの前に立つ。すると、重厚そうな扉の奥からゲラゲラと豪快な笑い声が聞こえた。

……うーん。

志垣さんが来てるのか。このまま引き返そうか、なんて思ったものの、ここに来るまでのあいだに叔父の部屋に備えつけられている防犯カメラのモニター画面には、私の姿がしっかり映っていることだろう。

私はため息を一つ吐いて、ドアを押しあけた。

「今晩は。……なんだか、おふたりとも暇なの?」

ソファに向かい合って談笑しているふたりに視線を送った。

「校了後くらい、羽を伸ばしてもいいじゃない。最近死ぬほどがんばってるのよ、俺」

志垣さんは、いつものようにビンテージもののアロハシャツを羽織って、煙草をくわえている。四十もすぎたおっさんのくせに、昔から生やしている顎髭のせいか少しも年をとらないような気がする。
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