眠れぬ夜をあなたと
彼にとって、ただの好意をしめすその所作が、いつわりのない笑顔一つで飛びきりのものに見えて来る。

天性のタラシは、自分を分かってないから仕方がないのだろうけれど、罪作りといえばそうかもしれない。


「たいしたことないから……ケイはケイの役割で…」

急激な睡魔の訪れが、大丈夫、と声を出す気力を奪う。

ケイの声も女優の声も、ドク、ドク、ドク、と安らぎの音に変換されていく。


そのうち頬に蝶がとまり、唇がこすられた気がした。

頭の中で『契約違反』の文字が旋回したけれど、私の口の筋肉は重くてもう動きそうにない。


今は穏やかに訪れた、眠りの波に乗っかろう。

優しい枕が隣にいるから。


今夜は孤独を感じない。
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