拝啓
黄金の河


線路沿いを戻る形で河に向かってひたすら歩いた…。
10分くらい経った頃、土手にたどり着いた。
丁度太陽が傾き始めていた。


私は土手の草むらに座って景色を眺めた。


母はどんな時、どんな気持ちでこの河を眺めて何を考えていたのだろうか?
もしかして、泣いていたのかな?


私は母が吸っていた煙草と愛用していたZippoを取り出した。
私自身は煙草をやめて、もう何年も吸っていなかった。


煙草をくわえてZippoでぎこちなく火を着けた。
煙を吸い込むとむせた…。


咳き込んでいると後ろから笑い声がした。
振り返ると、どっかの学校のブレザーを来た背の高い男の子が馬鹿にしたように笑っていたので、私はムッとして正面を向き、その男の子を無視した。


私は其どころじゃないのだ。
大切な考え事をする為にここに来てるのだから。



『オネーサン。火、貸してよ。』



笑った男の子が私の隣に座り煙草をくわえながら言った。

私は母が大切にしていたZippoを貸したくなくて無視した。
男の子は自分のポケットを軽く叩いて、ライターを探している。


苛々した私は母のZippoに火を着けてから火だけを貸した。
男の子は火に煙草を着けて美味しそうに煙を吐き出して『ありがとう。』と言うと河を眺めた。


私も母の煙草をゆっくり吸いながら河を眺めた。

不意に男の子が河を眺めながら私に話始めた。

『俺んちこの近くなんだけど、親父俺の年の頃よく何かあると河を眺めてたんだって。
俺も考え事するとき何となく河を眺めるクセが付いたんだよね…。オネーサンもそうなの?』


私も河を眺めなら答えた。
『私の母親、少し前に死んだのね。母親が若い頃、何か考え事とかするとき友達の家の近くのこの河を眺めてたのを思い出して、来てみたのよ。』


男の子は灰を草の上に落としながら私に問いかけた。

『へぇ。俺ん家、ずっとここに住んでるからもしかしたら知ってっかもよ?
何て名字?』

私は母が話してくれた内容を必死で思い出した。
『小山…だったかな…?』

男の子は静かに聞いた。
『下の名前は知ってんの?』

私は必死で思い出そうとしたけれど名前よりアダ名を思い出した。

『アダ名が【アテイ君】て言う人だったみたい。笑っちゃうよね。アダ名しか思い出せないなんて。』


男の子はポケットから新しい煙草を取り出し短くなった煙草の火を新しい煙草に着けて河を見つけながら更に私に問いかけた。

『オネーサンの母親ってどんな人だったの?』


私は河に母親の顔を浮かべながら話始めた。

『そうだね…。一般的に言う【おかーさん】ってタイプの人じゃなかったかな。
良く笑い、良く泣いてたし、母親って言うより、何でも話せる人だった。
外見は厳ついよ。
何時も風を肩で切って歩いてた。
そして、恐ろしくプライドの高い人だけど、自分が信じた人にはトコトン信じるし、とてつもなく優しい人でもあったかな…。
私はそんな母が大好きだった…。ウウン。今でも大好き。だから、母親が自分で1番輝いていたと聞かされた時の母親を知ってる人に会って、その時の母親を知りたくて、探してるのよ。』


男の子は私を見て更に聞いた。

『じゃあ何でさっきから難しい顔してんの?』


私は母の唯一の女友達だった智恵美さんの話をした。
自分でも初対面の、しかもかなり年下の男の子に母の事を話したのか分からずに、でも何故かは分からないけれど、すんなり事のなり行きを話していた。



その間、男の子はジッとなにも言わず只淡々と話を聞いていた。



話終わると、男の子は立ち上がりパンツに付いた砂を払うと私に向けて言った。

『じゃあ、俺んち行こっか。案内すっから。』


私は持っていた煙草を思わず落とした。
『何で君んちに行かなきゃなんないのよ?』


男の子はニヤリと笑うと答えた。

『俺の親父の若い頃のアダ名が【アテイ君】だったし、俺の名字小山って言うんだよねー。』


私は口をポカーンとしてしまった。



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