拝啓
約束の無い約束

私はあの河に座って煙草を吸っていた。
秋風が心地好い。
もう夏が終わる。妙に私の心は穏やかだった。
母だって、初めから母親じゃない。母だって青春時代を送り時を重ねていたんだ。
私はいったいどんな母親になるのかな?
自分の子供に恋の話しとか出来る親になりたい。
母みたいになりたい…。


ぼんやりそんな事を想いながら河を眺めていると、後ろから声がした。

『オネーサン。火。貸してよ。』

私は声の主の方に顔を向けた。
あの男の子が煙草をくわえてニヤリと笑っていた。


私は俊一に母のZippoを軽く投げて渡した。
俊一は器用にカチンと蓋を鳴らして火を着けた。
そして、私に手渡しで返しながら言った。

『この前から思ってたんだけど、このZippo。格好いいね。音も良いし、使い込んで良い味出してるし、オネーサンの?』

私は受け取ると変わりに黒い小さな箱を俊一に渡しながら答えた。
『いいえ。母のZippoよ。あんたもZippoの似合う良い男になんなさい。』


俊一は黒い箱を丁寧に開けるとそこに真新しい銀色に光るZippoが入っていた。
ボディに羽根が彫ってあり普通のZippoの大きさより一回り大きなZippoだった。


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