【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
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走る度に、音が大きくなっていく。

露李と海松はすくむ足を必死に抑えながら進む。

「なっ…!!」

開けた場所に出ると、まさにそこは戦場だった。

石の道は抉り取られ木はなぎ倒されるか削り取られるか──どちらにしろ酷い有り様だ。

赤や緑の閃光が行き交う。

二人は茂みに隠れた。


「手応えがないな。これでは無様どころか哀れだ」 


星月夜ははちまきを翻して疾風に拳をぶつける。


「哀れだと?わざわざ感想、有り難いことだな!!」


疾風は血を吐きながらも応戦している。


「しつこいな風雅。その姿、死にたいとしかおもえないね」

いつものように飄々とした水無月は跡形もなく、ドスの効いた声で結を煽る。

金の瞳には暗い光が宿りただ者ではないと直ぐに分かるような殺気を醸し出していた。


「死ぬのはお前だっての!っしゃ、ローリングウインド!!」


風が吹き荒れた。

「何してんのさ結!ふざけてたら死ぬよ!」

文月が宵菊の出した鞭を避けながら叫ぶ。

鞭には薔薇のような、しかし薔薇のそれとは比べ物になら
ない太さと鋭利さの棘が無数に付けられている。


「よそ見しちゃダメじゃない」


この場には不釣り合いに艶やかな笑みを浮かべて宵菊が言った瞬間、鞭が文月の頬をかすった。

一秒遅れて朱の線が走り、たらりと落ちる滴。


「ほんっと、危ないもの振り回すよね!」


宵菊の足下に魔方陣が造られたかと思うと水柱が立ち上がった。

激しい水の中でごぼごぼともがくのを冷たい目で眺める文月。


「女にひでぇことするなぁ?」

理津の出す狐火をかわしていた睡蓮が横目で見ながら笑う。

その一瞬の隙をついて理津が睡蓮の額に紫の霞で紋を刻む。


「ぐあっ!?」


「はっ、てめぇの相手は俺だろ?」


「こ、の…!」


「てめぇの記憶引きずり出してんだよ。悪いが俺達だって負けるわけにいかねぇからな」

汗を流しながら小さく笑い、術の効力を強めた。

秋雨はその光景を見て少し顔を歪めた。


「皆、手こずっているようだ」


「今日の僕たちは荒れてるんです。まだ死ねないので」


秋雨はまだ手を出す気は無いようだ。

静は警戒を強めながら秋雨を真っ直ぐ見つめる。


「何か転機でもあったのか」


「まぁ色々と」


いくら秋雨が好戦的でなくとも、静に教えてやる義理はない。

秋雨は穏やかだが芯の強い目をした少年を見て、微かに口元を弛めた。

十以上も離れているというのに、話すことは対等な位に筋が通っている。


「仲間…というのは良いものだな」


初めて静が表情を変えた。

戸惑いの色を隠さずに見返す。


「俺も、仲間がずっと欲しかった。…しかし」


今の俺は、それに値しない。


その言葉を合図に、秋雨が身体に呪の鎖を纏った。


「烈火」


「梅雨、降りつつ右。硬化!」


静も鎖を纏って応戦する。


前とどこか違う五人の姿を露李と海松は息を飲んで見つめていた。

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