【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
かつては部屋だったであろう畳が辛うじて残っている一角があった。
そこにだらんとした美喜を寝かせる。
真っ白な肌に、滑らかな黒い髪。
少しだけ触れた肌は以前と違い、温かかった。
「美喜」
答えないのは分かっていても、名前を呼んだ。
今は眠っている美喜でも有明の封印を知れば、また絶望に駆られるかもしれない。
本当のことを言えば起きて目を合わせるのが怖い。
─でも、会いたいよ。
友達として一緒にいた美喜に。
「…俺さ」
不意に、疾風が口を開いた。
「何?」
「お前が来る前も、こいつとクラスメイトだっただろ」
「うん」
「一度、こいつの手に当たったことがあったんだが。やけに気にしてて。別に俺はそんな関わり無かったから気にもしてなかった」
疾風の言わんとしていることが上手く掴めず、微妙な反応になってしまう。
うーんと曖昧に頷いた。
「けど、たぶんこいつはお前に救われたんだと思うぞ」
「え?」
「こいつ、変わってるし歯に衣着せぬ物言いって感じだろう。だからちょっと浮いてたんだ。露李も知らないことはないだろうけど」
少しの気まずさを覚えつつもまた首を縦に振った。
嫌われている、というより周りの女子は近づきがたい美喜の雰囲気に、恐れをなしていたのかもしれない。
今思えば、あれはあの子たちの防衛本能なのだろう。
むやみに自分達が傷つかないための。
「冷え性で体温は誤魔化してたみたいだが、そこまでしてこいつがやりたかったことは、普通の学生生活だったんじゃないかと俺は思う。──式神としてじゃなく、人間としての」
確かに、式神であることを美喜はずっと気にしていた。
「だからお前の分け隔てない態度とか、こいつにはきっと救いだった。というか、俺たちも救われたけどな」
「皆も…?」
「お前は気持ち悪がったりしないしな。普通気持ち悪いだろ。ま、そこがお前の良いところなんじゃないのか?」
「何か嬉しい」
思わず笑うと、疾風は後悔の眼差しでこちらを見てくる。
「何よ」
「…言うんじゃなかったな」
「……あのね」
ぎりりと睨みつけつつ少し心が軽くなったのを実感した。