【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく

後ろから抱き締める水無月に嬉しそうに微笑む露李、ジト目の同級生二人組。

何とも微妙な光景なのだが、露李本人は気にもかけていない。

文月と結、静が呆れ顔で見ているのにもお構い無し。


「露李。重くはないのか」


疾風がさりげなく聞くと、きょとんとした表情が返ってくる。


「何が?」


日常茶飯事のことなのですっかり慣れっこになってしまっているのだ。

水無月も露李に全力で体重をかけにいっているわけではない。


「ベタベタしすぎじゃねぇ?」


「何を言っている。寒さに震える露李が可哀想ではないか」


「んだよその理屈は。おい疾風、お前もコイツに何か言えよ」


理津が不機嫌そうに疾風に振ると、今度は疾風から不思議そうな表情が返ってきた。


「露李のためなら良いんじゃないか」


「……常識人は俺だけかよ」


「えっ理津が常識人とか」


「元凶お前だっつの!」


口をはさむ露李に一喝。

理津の盛大なため息を背後に、水無月をくっつけたまま露李がくるりと後ろを向く。

視線の先には花霞のある蔵。

禍々しい気が溢れ出すそこに顔をしかめながら、手を目の前に翳す。

そのまま目を閉じると、蔵の中の花霞の姿が頭に浮かび上がる。

ベタベタと護符が貼られた花霞が空に浮かんでいる。

露李が生まれるまでは浮かびもせず、先代の風花姫の護符で多少は抑えられていたそうだが。


自分が生まれたことで花霞が強くなってしまったのは何とも複雑な気分だ。

そんなことを考えていると、今度は頭に銀色の気が流れ込んできた。

自分以外でこの色を出すのは水無月くらいだ。


「露李。気にしなくて良いから、集中して」


「はい、兄様」


深呼吸して、心を研ぎ澄ます。


「邪にまみれし者よ。風花姫・露李の名において命じる」


そう唱えると、手から銀色の光が生まれる。

次の瞬間その光が紋を形成し、くるくると回転しだす。

神影家の八重桜の紋の上に、夏焼家のものだと思われるくちなしの紋が重なった。


「鎮まれ」


声と共に紋が蔵の方に飛ばされていく。


「秋篠家、氷紀の名において」


水無月が手を翳すと、また紋が生まれる。

竜胆の花だ。

くるくると回転し、露李の紋に重なった。


「行くぞお前ら!」


結の声を合図に守護者が手を翳す。

五色の光が露李と水無月の紋を包んだ。

回転しながら飛んでいく光の塊が蔵の前につくと、大きな鈴の音を立てて結界を張った。

シャン、という小気味良い音が朝にこだまする。

すぐにまた瞼を閉じて、邪気の具合を確認する。


「少しは鎮まったけど、やっぱりその程度かな」


うーん、と首を捻る露李。

蔵に近づくのも危険、護符を剥がして元凶を取り出すのはもっと危険。

ならばどうしたものか、と唸る。


「力使えるようになったんだ、そんな気に病むことじゃねーよ。今できることをすれば良いだけだ」


結がぽんぽんと露李の頭を叩く。


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