緑の指を持つ君と
とんぼ

夕暮れの空にふわりとトンボが浮かぶ。どこに向かうのか、みな羽を羽ばたかせて群を作っている。


「もう秋ですね」

「そうですね。このトンボ『赤とんぼ』のモデルになったアキアカネです。こんなに群れて飛ぶのは、この種類くらいなんですよ」


ついっと飛んだトンボが瀬名さんの隣に並んで、肩のあたりでゆらりと揺れている。


「いま空中で静止していますね。この状態をホバリングと言います。昆虫でもホバリング出来るのは、トンボしかいません。航空機でもホバリング出来るのはヘリコプターだけです。空中で静止出来るというのは、とても高度な技術がいるのですよ」

「同じ位置にいるというのは、そんなに難しいことなんですか? 」

「そうです。よく鳥と昆虫で例えられるのですが、鳥は飛ぶために羽を羽ばたかせて揚力を得るのですが、常に羽ばたかないと揚力を得ることが出来ません。勢いよく羽が空気を切ることで上向きの力を作り出しているので、低速での飛行は出来ないのです」
< 23 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop