精一杯の背伸びを






「私は行かない」




 榊田君が口を開く前に続ける。




「立て替えてもらったお金は払う。それなら文句ないでしょ?」




 私はコートを手に取った。




「約束は守れ。広也と夏に約束しただろ?」




 ああ。


 確かに、春休みこそは五人で出かけようって言ってたな。


 ぼんやり思い出す。




「行かない」




 さっきから、同じ言葉を何度も繰り返している。


 いい加減、うんざりする。
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