精一杯の背伸びを





「こ、小春さん!」



 坂の下から、佳苗さんが私の名前を呼んだ。


 コートに袖を通しながら、危なっかしく走ってくる。


 何でついてくるのだろう?


 本当に、無神経な人。


 私が佳苗さんと一緒にいたくないのがわからないのだろうか?


 走れば確実に振り切れるけど、逃げるなんてできなかった。


 プライドだ。


 彼女に負けているとは思わない。


 私は彼女を認めていない。


 私は、佳苗さんの声を無視してさっさと歩いた。


 佳苗さんが追ってくるのがわかったけど、ひたすら無視する。


 彼女は何も言わずに、私の三歩後ろを小走りでついてくる。



「申し訳ないですけど、散歩なら別々にしません?」



 私は自動販売機の前で買ったオレンジジュースを飲みながら、彼女を一瞥した。


 意識せずとも冷ややかな声だ。


 意識して、親しみをこめろと言われても無理な話だけど。


 一気に飲み干し、空き缶をゴミ箱に投げ捨てる。


 また、歩き出す。


 それでも彼女はついて来た。



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