精一杯の背伸びを




「憶が一、仁くんが私を裏切っていたとしても、私にとって彼が絶対だから。彼を信じるから、やっぱり裏切りは存在しないよ」



「はぁ?じゃ、何か?お前は仁が、天を地だって言ったらそれを信じるのかよ?馬鹿馬鹿しい」



 榊田君は吐き捨てるように言ったのを、私は間髪入れずに返す。



「もちろん。信じるよ」



 仁くんが天を地だと言えば、私にとっては地になる。


 例え、他の人にとってはどうであろうとも。


 彼の言葉だけを私は信じる。


 榊田君の目をまっすぐ見据え、きっぱり言い切った。


















 榊田君のまとう空気が一気に変わる。


 その眼差しは、ひどく冷ややかだった。


 冷ややかな眼差しを向けられ、思わず、息を呑む。


 でも、怖いくらい冷ややかな視線を自分に向けられているのに、私の心にそれほどの動揺はない。


 私の心を揺さぶるのは仁くんだけなのだと思い知る。




「馬鹿が」



 榊田君は私から目を逸らし、立ち上がる。






< 83 / 233 >

この作品をシェア

pagetop