精一杯の背伸びを




 拳を軽く胸の前で握って歩き出す。


 数ヶ月前の自分と重なった。








 緊張して震える足。


 思うように動かない指先。


 強張る身体。


 早まる鼓動。


 脳裏にちらつく、幼き私の幻影。


 全部を無視して、ゆっくりと、だけど躊躇せずインターホンを押した。














 中から物音が聞こえてきた。


 どうやら、今日はいるらしい。


 ただ少しの違和感があった。


 それが何なのか考える前に、鍵を開ける音が聞こえ、ドアが開かれた。


 私は目に飛び込んできた人物に呆然と立ち尽くした。


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