恋が都合よく落ちてるわけない
残業も、そろそろ終わりにしよう。
もう、すでにいい時間だ。

ふうっと息を吐く。

いろいろあって、疲れがたまってる。
もう、帰ろうかな。
疲れさえすれば、眠れる。


大きく伸びをした時、携帯が震えた。


誰が掛けてきたのかわかるように、一人だけ、バイブ機能にしていた。



あんなに待ちわびた電話だった。


しばらく無視してたけど、
諦めそうもない。


画面に、西川の文字。

西川さんとは、私が経理課で呼ばれで
仕事をしていたときに出会った。


彼は、いつも一人だけ、
遅くまで仕事をしていた。

フロアのレイアウト変更の時、業者に立ち会っていたときに、声をかけてきてくれた。


「床下ってこんな風になってるんだね」
床は二重になっていて、ケーブルや
電機系統の配線が、這わせてある。


「君は?電機会社の人?」


「いいえ。これでもうちの社員です」

私は、作業着のジャンバーの下から、
社員章を見せた。


「システム部の大島です」


「ああ、そう。でも、業者の人に付き合って配線までのぞいている人見たことないよ。しかも若い女性だなんて」

西川さんは、そう言って笑った。


「床下のプリンセス…だね」


「はい?」

ピッタリ分け目のついた髪に、
眼鏡と指サック
西川さんのいつものスタイル。


だから、彼の口からプリンセスっていうのは、似合わない。
言った方も、言われた私も同じだけど。


「何でもない。ちょっと独り言。そうだ。君はまだここにいるよね?」
私が、はい。と答えると、


「じゃあ、ちょっと待ってて」
と西川さんは何処かへ消えてしまった。


私は、業者の人に質問され、床下をのぞいていた。
西川さんのいう通り、
私は、好きでここにいる。

線路のレールと同じように、
ケーブルがどこに、
どうつながるのかワクワクする。

用事を済ませて、私は、
西川さんの所へ戻った。
本当は、戻る必要なんか無かったのに。


「はい。これ」
缶のコーヒーを二種類。

「甘いのと甘くないの、
好きな方を選んで」

私は、どちらでも良かったけれど、甘いのを飲んでいる西川さんが想像できなくて、砂糖入りのを選らんだ。

「今日は、もう終わりですか?」

何てことを!

自分でも、大胆に誘ってしまった
ことに驚いた。

「はい…」

その日は、食事に誘う勇気がなくて、
ターミナル駅のホームで別れた。



それから、仕事が終わると西川さんの姿を探すのが日課になった。





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