恋が都合よく落ちてるわけない
「不具合ですか?」
男の体がようやく私から離れた。


「岡崎さん…」
さっと何かを感じたのか、
近寄って来てくれた。



「ちょっと、
代わっていただいてもよろしいですか?」

泣きそうになるくらいホッとした。

「はい」


岡崎さんは、
なれた手つきで画面を切り替えると、

「うーん、やっぱりバグみたいです。すぐに対応させていただきます」

そういうと、電話を取りだして会社にいる開発担当者を呼び出した。


「ああ、山下君?
この間の修正かけたところ、
数字が入んなくなってる。
直ぐに修正かけてくれる?」


こんな調子で、
私が仕様書を見てる程度の時間で、
あっというまに片付けてしまった。

営業の男も、岡崎さんには逆らえず、すんなり引き下がった。
「後は、こちらで対応しますから…」


「さすがです…私なんか、
原因思い付くまで、岡崎さんの何倍も、
時間かかってしまいます…」


「そんな事、気にしてるんですか?」


「そんな事じゃないです」


「僕が対応出来るなんて、
当たり前じゃないですか。

これでも自分でシステムを
設計したんですよ。

大島さんが、
仕様書確認して、電話してくれる。
そういう決められた手順を守っていただければ、いいんですよ」


「ごめんなさい、少し動揺してしまって」
まだ、足がふらふらしていた。


「いいですよ。気にしないで下さい。少し休みましょう」
岡崎さんに、自販機のある休憩所のソファに座るように言われた。

倒れ込むように、私は座った。


「飲みものでも、買いますね」


動揺したのは、
仕事の対応ができなかった事
じゃなくなて、
岡崎さんが来なかったら、
どうなっていたのか分からない事だった。


「どうぞ、甘いのと、甘くないのがあります。好きな方をどうぞ…」


「あの…岡崎さん…」今、なんて、


変なところで止めるから、岡崎さんが変な顔してる。


「甘い方で…」


「どうぞ」

甘くて落ち着く…

「大丈夫ですか?」

大丈夫じゃないです…
震えてるのがばれてしまう。

「落ち着くまで、ここにいますから…」

岡崎さんの腕が私の方に伸びて来て、背中をさすってくれる

コーヒーのカップに涙が落ちた。
大丈夫だって思ったのに。


全然、大丈夫じゃない。
いろいろありすぎて、
不安で仕方なかったのだ。

「疲れた時に、
すぐ近くにこんな可愛い人がいたら、
どうしても触れたくなるんです。
怖かったでしょう」


気持ちが止まらなくて、
拒否されるの覚悟で
顔を岡崎さんの胸に埋めた。

岡崎さんは、優しく受け止め、
髪をなでてくれる。

抱きしめてはくれないけど、
拒否もしない。

どうしよう…
ドキドキが止まらない。


私、この人好きになったのかも…







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