午前0時の恋人契約



「す、すみません……調子に、乗りました」



調子に乗って近づきすぎてしまったかもしれない、恥ずかしさからつい視線をそらし少し距離をとろうとした。

その時、そっと頬に添えられる手。



「……貴人、さん?」



彼の大きな右手は、私の頬を包むように触れると、顔をそちらへと向けさせた。

しっかりと見据える落ち着いた瞳に、驚く自分の顔が映る。



「そんな風に近付いたり笑ったりされたら、我慢出来なくなる」

「え……?」



それって、どういう意味……?

そう問いかけようとした瞬間、顔は近付きゆっくりと唇を重ねた。



薄く少し渇いた彼の唇は、優しく触れて、一度離れ、また重なる。

吸い付くような、求めるような熱いキスに、互いの息が混じり合う。



「ん……、」



漏れた微かな声に彼は目を細め、空いていた左手で私の体を強く抱きしめた。



いきなり、どうして?

戸惑いながらも、体はその腕から逃れようだなんて微塵も思えない。

ううん、むしろ逆。受け入れたい、求めている。



心の中の不安や痛み、それらを全て愛おしさに変えてしまうような甘いキス。

重なる唇から伝う、少し苦いお酒の味と、貴人さんの匂い。

それらが想いをかきたてて、もっと、だなんて求めるように、彼の胸元をぎゅっと握った。



口付けるふたりを包むように、その場には雨の音だけが響いていた。

それは時計の針が0時を指すまでの、僅かな時間。








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