午前0時の恋人契約



「ドキドキする心も、痛む心も、どっちも立派な恋の証よ。それを抱えて、すみれちゃんはどうしたいの?」

「私……ですか?」

「折角知ったその気持ちを、拒まれたからといって捨てるの?捨てられる程度のものなの?」



貴人さんが、教えてくれたこの気持ち。

自分は、そのままでいいこと。勇気を出して、気持ちを表すこと。触れられた時のドキドキとか、彼の隣にいると世界が違って見えたりとか、こんなにも痛む胸の苦しさとか。

たった10日のあいだに溢れた、数え切れないほどの想い。



それを、線を引かれたからといって捨ててしまうの?捨てられる、ものなの?



「……捨て、ません。捨てちゃ、ダメです……」



小さく首を横に振った私に、桐子さんはそっと微笑んで頷く。



「そう、伝えなきゃ。勇気を出せば案外違う結果が待ってるかもしれないじゃない」

「違う、結果……?」

「前にも言ったでしょ。なにが起こるか分からないのが人生、そして何事にも挑んでみるのも、また人生って」



それは、最初私がこのお店に来た時にも桐子さんが言ってくれたひと言。



どうなるかなんて分からない。なら、踏み出そう。

例え無理なことが目に見えていても、分かっていても。彼のおかげで自分がこんなにも変われたことを伝えたいから。



こんなにも、あなたへの想いが胸に溢れていることを、伝えたい。

全部、全部。




迷いのない桐子さんの言葉に、自分が今どうするべきか、どうしたいか、それらがわかった気がする。

全ては、明日。最後の日を、後悔のないように。






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