午前0時の恋人契約



暗い中で触れる手は、歩きながらつなぐものとはまた違う。

大きな手のひらから長い指先まで、指一本一本しっかりと意識する。



……あつい。

つなぐ手も、染まる頬も、あつい。全身の熱が上がっていく。

ドキドキ、しちゃうよ。



目の前がホラー映画っていうのがちょっと残念だけど……。

なんてことを苦笑いで思っていると、スクリーンに映るシーンは、突然わっと驚かせるような女性の幽霊のアップ。

その途端、重ねられた手はビクッと怯えたように一層強く私の手を握った。



……あれ。

この反応から察するに、やっぱり。



「……あの、貴人さん?やっぱり怖いの苦……」

「ち、違う!少し驚いただけだ!」



小声で必死に否定するものの、手を握る力は先ほどより強い。



……手を握った理由は、恋人とか関係なく怖いからだったんだ……。

自分の感じたドキ、と彼の感じたドキ、の違いに、つい笑ってしまう。



「おい、笑うな。本当に俺はただ少し驚いただけで……」



そう弁解しながらも、スクリーンに映った血まみれの女性に、またその手はビクッと握る手に力を込めた。



強がりというか、意地っ張りだなぁ……。

でも怖いの苦手なんだ。いつも堂々としてる彼を見ているだけに、その姿はちょっと意外。



そっか、苦手なんだ。

またひとつ初めて見る表情は、決してかっこいいとは言えない部分。

だけどそれを知って、少し嬉しい自分がいる。



こうやって、ひとつひとつ知っていくんだ。昨日の彼の言葉の通り。

ひとつ、ひとつ。





< 61 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop