午前0時の恋人契約



「……いい自分、を作り上げていった結果、彼には『気持ちが分からない』って、ふられてしまいましたけど」



彼のために、好かれる自分でいたい。

そう願い続け演じたけれど、彼には全てバレていた。



彼のために、じゃない。私は、自分のために好かれる自分でいたいと必死になっていたこと。



『……俺、すみれの気持ちが分からない』



私の、気持ち。

嫌いにならないでほしいという、気持ち。

それはいつしか、私自身の気持ちを見失わせていたんだ。



恋というものがなんなのか、一層分からなくなってしまった。

嫌われたくない、嫌われたくない、嫌われたくない。その願い以外、どうしていいか分からない。



すがることしか出来ない私には、やっぱり恋なんて出来やしない。



「……まぁ、嫌われたくないと思っちゃうのも分かるけど。お前のは、少し過剰だな」

「うっ……」



過剰、そうはっきりと言い切る彼の一言は耳に痛い。

すると寝返りを打つようにその体はこちらへと向き、互いの目と目がしっかり合う。



「俺は、もっと肩の力抜いて相手を想うことも恋だと思うけど」

「肩の力、を……?」

「嫌われたくないから、相手の言うことに頷いていい人なままでいる、じゃあ逆にお前はそれくらいで相手を嫌いになるのか?」



もし、私が言ったことに、相手が否定を口にしたり、思ったのと違う反応をしたとしたら。

私は、彼を嫌いになった?



「相手が気遣ってなんでも頷いてくれればそれで充分か?そうすれば好きになるのか?」



もし、私が言ったことに、彼がなんでも頷いてくれるのなら。

そんな彼だから、好きになる?



……答えはどちらも、『ノー』だ。



「……ならない、です。それくらいで相手を嫌いにも、好きにもならない」



好きな人との間なら、意見の相違も大切なこと。それくらいじゃ嫌いにならない。

でも、どんなに意見が一緒でも彼じゃなくちゃ意味がない。



その人とだから、ともにいたい。




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