午前0時の恋人契約



「あれー?会議室鍵かかってる。おーい、誰かいますー?」

「わっ!!」



その時、ガチャガチャッと外からドアを開けようとする音と声が響く。

驚きつい立ち上がった私に、横になっていた貴人さんは転がりソファの下に落ちた。



「いって……お前なぁ……」

「あっ、すみません!」



し、しまった!

無理に膝枕させておいて落とすなんて……でも早くドアを開けないと、変に疑われるのも困る!

そう慌ててドアへ向かい鍵を開けると、ドアの向こうには津賀くんの姿。



「あれ、市原さん。会議室で鍵閉めてどうしたんですかー?」

「ご、ごめんね。鍵閉まっちゃってたみたい、気付かなかった」



不思議そうな顔でこちらを見た津賀くんに謝ると、隣ではスーツのよれを直した貴人さんが不機嫌そうに立っている。



「あ、岬課長!ちょうどよかった、向こうで探してる人いましたよ〜」

「あぁ、分かった。今行く」



相変わらず忙しそう。ていうか私、作業止めさせておいて自分の話ばっかりして……貴人さん全然休めなかったかも。



「市原、残りの資料作り頼んだぞ」

「は、はい……なんか、すみませんでした」



申し訳ない気持ちでつぶやくと、彼はそんな私の背中をポンポンと叩き歩き出した。

その優しい手は『ありがとな』と言うかのようで、心を小さく鳴らす。



こうしてまた、彼の言葉に救われている。



『諦めるな、前を向け』



恋をすることを諦めない。どんなに不安でも、その気持ちすらも、愛しさに変えて。



……今夜は、自分から手をつなごう。

沢山の想いや言葉をくれる彼に、少しでも返せるように。伝えたい、伝わってほしい。

だから自分から、彼に触れよう。



溢れる愛しさは、留まることを知らずに。









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