午前0時の恋人契約



「なんだ、まだコピー終わってないのか。それだけのことに時間かかりすぎだ」

「あっ!す、すみませ……」



そして私の腕をぐいっと引っ張ると、体を寄せるように腰を抱き顔を近付けた。

わ、近い……!



「ところで今夜のことだけど、今夜はどこ行きたい?すみれ」

「え!?えと……」

「明日は休みだからな、少しゆっくりするか」



な、なにをいきなり……!?しかも部長の前で!

突然の事に身動きがとれず固まる私に、彼は近づけたままの顔をふと思い出したように部長へと向けた。



「あ、すみません部長の前で。ついうっかり」

「い、いや、別に……」

「それで、彼女になにかご用ですか?仕事の話でしたら、自分もぜひご一緒しますけど」



にこ、と見せた微笑みは、威圧感の固まり。

そんな彼に、それまで呆然としていた部長は「いや、その、あの」と口ごもりながらフロアをあとにした。



ふたり残されたその場で、貴人さんは呆れたように溜息をひとつつく。



「ようやく行ったか、スケベオヤジ」

「す、スケベ……?」

「あいつ大人しそうな女子社員見つけると片っ端から声かけて食事誘ってセクハラ三昧って噂だからな。ったく、店舗管理部はセクハラ野郎しかいないのかよ」



不快そうに眉間にシワを寄せ言う、『セクハラ野郎』の言葉。

その中に津賀くんも含まれてしまっているのだろう言い方に、思わず苦笑いがこぼれる。



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