強引な彼との社内恋愛事情

「はっ?」


「みんなで花見行くの嫌なら、俺と二人で花見。どうですか?」

と片手をよく見ると、いつもの鞄にコンビニの袋。
少し重く見えるのは、缶ビールの銘柄が見えるからかもしれない。


「無理」


「行きましょう」


「本当に無理」


繋いだ手には力がこもる。こんなところ、他の社員に見られたら誤解されてしまう。
只でさえ噂のネタになりやすい彼なのに。
巻き込まれるなんて、まっぴらごめんだ。


「この手離してくれる?」


「じゃあ花見行きます?」


「いや行かないよ」


「行くなら離します」


人の目が気になって仕方ない。
田原さんがこのタイミングで通りがかってしまったら最悪だ。


なんて田原さんは私に興味などないから、想像するだけ無駄だ。

結婚するんだし。

そう思うと馬鹿馬鹿しいのに、切なくなる。


「少しだけ付き合って下さいよ」


ねっ?と、広重が優しく言うものだから、つい


「わかった」


と、頷いてしまった。


「本当に?」


「でもすぐ帰るからね」


上下に腕を振って離した。広重は笑った。

< 14 / 102 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop