強引な彼との社内恋愛事情
「はっ?」
「みんなで花見行くの嫌なら、俺と二人で花見。どうですか?」
と片手をよく見ると、いつもの鞄にコンビニの袋。
少し重く見えるのは、缶ビールの銘柄が見えるからかもしれない。
「無理」
「行きましょう」
「本当に無理」
繋いだ手には力がこもる。こんなところ、他の社員に見られたら誤解されてしまう。
只でさえ噂のネタになりやすい彼なのに。
巻き込まれるなんて、まっぴらごめんだ。
「この手離してくれる?」
「じゃあ花見行きます?」
「いや行かないよ」
「行くなら離します」
人の目が気になって仕方ない。
田原さんがこのタイミングで通りがかってしまったら最悪だ。
なんて田原さんは私に興味などないから、想像するだけ無駄だ。
結婚するんだし。
そう思うと馬鹿馬鹿しいのに、切なくなる。
「少しだけ付き合って下さいよ」
ねっ?と、広重が優しく言うものだから、つい
「わかった」
と、頷いてしまった。
「本当に?」
「でもすぐ帰るからね」
上下に腕を振って離した。広重は笑った。