強引な彼との社内恋愛事情


その頃には、田原さんを意識していたから、
そのひと撫でに、私の心は決まってしまった。
好きなんだと。


「二人で乗れるかな」と、田原さんが言う。

勿論、一台の自転車に乗る場所なんて決まっていて、田原さんは前に。私は後ろの荷台に。
あの日も今日みたいなタイトスカートだった。


「パンクしたら遠山が弁償だからな」と意地悪く言う声もドキドキが勝ってしまって上手く返事が出来なかった。


川辺に咲く桜並木。ゆるい坂を下りながら、時折、触れてしまう彼の背中に、またドキドキが治まらなくなる。


「綺麗だな、遠山」


「ですね」


なんて膨らまない会話。


それを昨日のことのように、毎晩、毎晩思い出して。
そう。
今日まで生きていたというのに。
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