ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
「めぐ、この間言ったよね? 年取った時、縁側で並んでほっこり出来るおじいちゃんとおばあちゃんになりたいって」


美砂子はお通しに箸をつけながら、目線を落としてぽつりと言った。
静かに諭すような声に、私はただ、うん、と頷いた。


「それってさ……。
若い時に盛大に愛し合った思い出を抱えてずっと寄り添ってるからこそ、そういう和やかな雰囲気を出せるんじゃないの?」


美砂子がちょっと意地悪く私に箸の先を向けながらそう言った。
私は黙ったまま、美砂子をジッと見つめる。


「愛する必要も愛される必要もない、なんて言えちゃうめぐには、絶対無理だと思う」


素っ気なく言い捨てる美砂子の声が、なんだか心に沁みてとても痛かった。


「……でも……」


俯いて、ジョッキの中の琥珀色の液体を眺めながら、無意識にそう呟いた。


「何?」


美砂子に聞き返されて、私は曖昧に首を横に振った。
そして、その先に続く言葉を飲み込んだ。


私が響さんに対して抱くのは、憧れと尊敬、敬慕の気持ちだけでいい。
立派な奥様になる為ならば、それだけで十分だ。


私と響さんは、家族になっただけだから。


恋する必要なんかない。
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