彼の鯛焼きにはあんこが入っていない


なんて歌なんだろう。


おいらは思った。


勇気づけられると同時に、こう、鱗の辺りがむず痒い。


切ないとは、こういうことか。


歌声と香りに引き連れられ、仲間が1人、また1人と旅立っていく。


おいらたちの間で、この曲はこう呼ばれていた。


(legend♪song)


伝説は代々、受け継がれ、おいらははたと気づく。


そうさ。


おいらだって、おいらたちだって自由じゃねーか‼︎


「旅立とうぜ‼︎自分の意思で‼︎」


仲間に呼びかけるが、誰もが腰が引けている。


ここはそうだ、おいらが伝説を塗り替えて、あとの代に託せばいい‼︎


「おい親父‼︎おいらは行くからな‼︎」

「まだアンコ入れてねーのに、いっぱしの口きくんじゃねー‼︎」

「邪魔はさせねー‼︎」


大量のアンコを乗せたヘラをヒョイと避け、おいら
は店を飛び出した。


アンコがなけりゃ、身軽なもんよ。


やっぱり行き先は…。


海だ。


チャプンと飛び込み、ひらひら泳ぐ。


やっぱいいやね。


あんな狭苦しい鉄板で毎日毎日、そりゃ嫌になるってもんさ。


なんて広いんだ。


なんて青いんだ。


アンコねーから、底まで潜れないけど、おいらは自由だ。


自由なんだ‼︎




< 22 / 28 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop