知ることから始まるんだ!
崇は幸樹のところに来るなり、警察へ携帯を渡して事情聴取を受けた。


「ストーカーじゃないね。たぶん・・・」


崇のその言葉に、幸樹は驚いた。


「なぜそんなこと言えるんですか?
奈々も床に落とすほどのことがあるんですか?」


「うん・・・たぶん明日奈は母親のところに行ったのかもしれない。」


「えっ?明日奈のお母さんって亡くなったんじゃ・・・。」


「俺と優奈の母は亡くなったんだ。
けど、明日奈は・・・じつは・・・親父が外でね・・・。
幸樹さんの家と似たようなことがうちもね。」


「明日奈だけ母親が違うってことですね。
けど、なぜ・・・それにお母さんなら手紙やメールくらいあってもいいんじゃないですか?」


「そうだね。たぶん、やってきた人は母親ではない誰かなんだろうと思う。
慌てて出たんだ。」


「しかし、時間がもうけっこう経ってしまっているのに、何も言ってこないなんておかしい。
俺に何も言わずなんて・・・ありえない!!」


「そうですか。ふふっ。」


「どうしたんです?」


「いや、いつの間にか幸樹さんと明日奈には特別な絆ができていたんだなぁっと思って。」


「あっ、いやその・・・はい。」


「よかった。幸樹さんの家で明日奈を預かってもらったこと。
明日奈も大喜びだったでしょう。」


「えっ?大喜びとは・・・。」


「明日奈はあなたを知ってすぐに夢中でしたからね。」


「そ、そんな・・・俺なんかいかついオッサンだし、ファンのいっぱいいる明日奈にはとても近寄ることも恐れ多いのに。」


そんな会話が交わされたとき、崇の携帯電話が鳴った。
知らない番号から発信されている。


「もしもし?」


「崇兄さん!!」


「明日奈!どうした。そこは君のお母さんのところだったよな。」


「あのね・・・母がさっき、亡くなりました。」


「えっ!!じゃ、君をそこへ連れていったのは誰だ?」


「母のお世話をしていただいている方よ。
母はずっと自分が病気だということは秘密だったの。
それとね・・・私、そちらにはもう帰れないって幸樹先生に伝えてほしいの。」


「どういうことなんだ?こっちに帰れないって・・・。」


崇の様子をみて慌てて、幸樹は電話を取り上げるように変わって言った。


「なんかあったのかい、明日奈!」


「先生!!どうして・・・。」


「当たり前だろ、俺は君が何者かにさらわれたと思って・・・どんなに心配したか。」


「ごめんなさい。あの、私、こちらで結婚することになったんです。
いろいろ事情があって、それがいちばんいい方法だから・・・先生にはほんとにお世話になって感謝しきれません。」


「待てよ、そっちに行く。詳しく事情をききたい。
でなきゃ、俺は納得できない。
頼む、早まらないで!
今からそっちにいくから、住所を教えてほしい。」


「でも・・・」


幸樹の様子をみて今度は崇が電話を取り上げて叫んだ。


「明日奈、幸樹さんは話をきく資格は十分あるはずだ!
俺でも納得できない!
お母さんは違っても俺たちは兄妹だ。
俺も行くから、説明するんだ。いいね。
納得できることなら・・・君が幸せになるなら、応援するから。ねっ。」
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