知ることから始まるんだ!
幸樹は家から近所の小学校に充を転校させた。
はじめは本当の父親じゃないことにいじめられたら?という不安から私立の学校も考えたが、いじめはどこでも発生し得ることだし、移動できるところは用意しておけばいいという結論から、とりあえず公立の小学校へ通うことになった。


しかし、心配は嘘のように充は学校に馴染んできていた。
他の子どもたちのように携帯やパソコンを自由に使えないようにしていたことも、よかったようだ。


「父ちゃん、明日奈は?」


「おい、なんで明日奈のことを母ちゃんと呼ばないんだ?」


「明日奈はきれいだし、育ててくれたママとそっくりで、優しくて料理がうまいから。
僕・・・明日奈をお嫁さんにほしくて。」


「ぶぅーーーーーっ!!!」


充の言葉に幸樹は飲んでいたコーヒーを吹きだしてしまった。


「充・・・明日奈は父ちゃんの奥さんなんだけどなぁ。
だから、おまえはここにいることができるんだ。
じゃなかったら、おまえはダディのとこへ行かされてたはずなんだからな。」


「わかってるよ。
父ちゃんには感謝してるよ。
僕なんかより、明日奈をどうしても奥さんにしたかったんでしょう?」


「ぐわっ!おまえなぁ・・・。
そういう重箱の隅をつっつくような発言するなよな。

じゃ、言ってやる。
俺は島に明日奈を置いてくるなんて絶対に嫌だった。
そばにいてくれないとダメだと思った。
それと・・・母ちゃんのいない息子のつらさはよく知ってるから。
おまえは俺よりつらいと思った。

俺は本当の母親を失ったが、弟の母がいい人だったからグレることもなく好きな道にすすめた。
けど、おまえはじつの母ちゃんも知らず、優しく接してくれるようになった明日奈の母も・・・亡くなってしまった。
そんなのはあんまりだよな。
7歳なんかでそんなの・・・ひどいよな。」


「父ちゃんは幸太郎の父ちゃんもしてるんでしょ。
なんかかっちょよくもなくてさえないけど、僕、幸太郎の弟分でもいいよ。」


「ば~か!幸太郎はカメレオンだぞ。
充は俺と同じ種族なんだから別格だ。
弟分なんてわけないだろうが。

俺のれっきとした長男だよ。もっと自信を持てよな。」


「そっか。俺が長男なんだよね。
うん、俺、父ちゃんの長男としてがんばる!」


その後、幸樹が明日奈に充が自分のことを『俺』と偉そうにいうようになったととがめられたのは、いうまでもなかった。
< 60 / 67 >

この作品をシェア

pagetop