アイザワさんとアイザワさん

「はいはい、分かりました。」

と、全く反省していない口調で、相澤はタバコを携帯灰皿に当てて、もみ消した。

「喫煙スペースには行きたくないんだよ。理由なら……お前だって心当たりがあるだろ?」


そう行って相澤は鬱陶しげに顔をしかめた。


そう。私たちは同じ理由で互いにウンザリしていた。

それは、ある質問のせいだった。

新しく入ったスタッフがそろそろ接客にも慣れて、もうサポートもいらないかな?と思った時期に私は決まってその質問をされていた。


「副店長!副店長って、店長の奥さんなんですか??」


誰が誰の『奥さん』じゃ!コラ!!


名札にちらりと目をやる。サンキューマートのロゴが入ったネームプレートに書いてある名前は名字だけ。しかもカタカナだ。


つまり、私たちの名前は『アイザワ』。漢字は違うのに、カタカナでは全く同じ名前になる。


「全く、迷惑だよなぁ。俺なんてお前が長くこの店で働いてるのを常連さんは知ってるから、店長になるために婿に入ったヤツ、って思われてんだぞ。」


そう。私はスタッフから、相澤はお客様から同じ内容の質問をされてウンザリしていたのだ。


「だからって、ここでタバコ吸っていいはずないでしょ。」

相澤は外に出るとお客様に捕まってしまい、いろいろと会話しなければいけないのがとても面倒らしかった。

だから店内で隠れるようにタバコを吸っているのだ。

……やめちゃえばいいのに。タバコ。

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