【短編】好き、です。
素早い動きで稲沢が右にずれ、その後ろに見えたのはホースだった。
他の2人が何かをしているのには気付いていたが、まさかホースを蛇口に繋いでいたとは。
予想外のことに、咄嗟に動こうとするも間に合わなかった。
円を描くように綺麗に飛び出した水は、見事、私に頭から降りかかった。
それと同時に、不快なかん高い笑い声が満ちる。
私は何をする訳でもなくその場を動かずにいた。
ひとしきり笑うと、満足したのか、彼女達はトイレから出て行った。
話し声が遠くなったのを確認して、チョロチョロと流れでている水を止めた。
呆れて声も出ないとはこの事だ。
口から漏れたのは溜息だけだった。