理屈抜きの恋
「うわー!凄い!びっしり入っている!」

瓶の中にいる蜂の子を多方向から見ては感嘆の声を上げる彼女は無邪気で可愛い。
でも理解は出来ない。

「君はどうしてそんなにゲテモノが好きなんだ?」

「栄養あるんですよ。それにこの生生しい感じがなんとも言えません。命を頂きます、っていう尊い気持ちになります。でも、どうしてこれを?」

恐らくあの女性は鵠沼の事が好きだ。
だからパーティー会場で鵠沼と話していた彼女が気になり、幼虫だの昆虫について熱く語っていたのを盗み聞きしていたのだろう。

彼女がトイレに抜けた隙に、いきなり『私の実家、養蜂園営んでいますっ!』って飛び込んで来たくらいだから間違いない。
その興奮のせいで流血騒動になったのだけど。

「これは俺じゃなくて君にだ。」

「いえいえ。これは副社長へのお礼の言葉ですよ。」

「俺はただ椅子に座らせただけ。手当をしたのは君だ。」

「それだけでも嬉しいんです。みんなの目に晒されていたあの場所から、副社長のような方に動かして貰えた事、すごく感謝していると思います。」

遠い目をした彼女を見てふと思い出した。

「君もホテルの床に座り込んでいたな。」
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