【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
 話しを聞いていた鉄砲頭の松野
の顔色がくもる。
「これでいいのかの。わしは太閤
に顔向けできん」
 秀秋は忠義心の強い松野の気持
ちを察した。
「松野は秀家や三成で天下が治ま
ると思うか。この場に秀頼を連れ
てこなければ豊臣家とは無関係の
ただの殺し合いにしかならない。
その秀頼を三成は連れて来ること
ができなかった。それにな太閤は
朝鮮の過ちを繰り返した。それを
わしもここにおる全ての者が、太
閤を止められなかった。三成や吉
継には才覚がある。その才覚が太
閤によって間違ったことに使われ
ているのを知っていたはずだ。そ
れでもどうすることもできないの
なら、その才覚はなんの役にもた
たない。だからこうして豊臣家の
家臣だった者たちが不信感を抱き
仲間どうしが争うことになったの
ではないのか」
 松野は唇を噛みしめてうなだれ
た。
 稲葉、杉原、岩見、平岡も不安
がないわけではなかった。
 秀秋は皆の思いを汲んで言っ
た。
「たとえこの戦で家康殿が負けて
も家康殿は過ちから学んでまた挑
んでくる。再び長い乱世になれば
それこそ民衆の心は豊臣家から離
れ後世に恨みを残すだけだ。今こ
こで戦を治め乱世を終わらせる道
を選べば太閤の名誉も保つことが
できよう。それにわしらの勝ち
取った領地で太閤の意思を継ぐこ
ともできるではないか」
 皆の目に輝きが戻り、深くうな
ずいた。
 秀秋は立ち上がり、力強く命令
した。
「稲葉、杉原、岩見、平岡は正面
から攻めよ。松野は大谷隊の背後
に回れ」
「はっ」
 一同はすばやく散り、部隊を小
隊に振り分け、配置に着かせるか
け声で城内に気合が入った。
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