【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
秀次事件
 文禄四年(一五九五)七月三日
 秀吉は聚楽第の秀次のもとに石
田三成、増田長盛ら奉行衆を向か
わせ謀反の疑いで詰問させた。
 詰問の内容は以下のようなもの
だった。
 ・酒におぼれ、無用な殺生をし
  て政治をおろそかにしたこと
 ・軍備を増強し、武装した者に
  市中を行列させたこと
 ・朝廷に多額の献金をし、謀反
  を企てたこと
 読みあげられて秀次が反論しよ
うとすると、先に三成が口を開い
た。
「これらのことは私たちにも責任
のあることで何とでも言い訳は立
ちます」
 そう言いながら懐から書状を出
した。それは秀次に忠誠を誓うと
いう諸大名の署名が入った連判状
だった。
「これは毛利輝元殿から差し出さ
れたもの。署名を見ますと北から
回っていたようですが、前田利家
殿、徳川家康殿など主だった方々
の名がありません。明らかに偽物
ですが太閤がここまでされるとな
ると処罰を免れることは難しいと
思われます」
 三成の言うとおり、この詰問は
処罰する手順の通過点に過ぎな
かった。秀次はため息をついた。
「確かに、そうじゃ。わしの覚悟
はできた。しかし他の者の災いは
なんとか食い止めたい」
「それは私たちも最善を尽くすつ
もりです。この後は軽はずみな行
動は慎み、心穏やかにお待ちいた
だきたく、お願い申し上げます」
 三成一同は秀次に平伏した。
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