課長と私
ep.5

おしゃれなカフェでのランチから会社に戻る途中。

正面玄関からは入ってはいけないため、非常用の階段から部署に向かう。
緩奈とのお喋りに夢中になって前から人が来るのに気づかなかった。

案の定前から来ていた、男性とぶつかり合ってしまう。


「わっ…ごめんなさい、大丈……」


ずっと目を合わすことが出来ずにいた先輩がそこにいた。

久々に顔をじっくり見たため今までは気づかなかったが
目の下にはうっすらとクマがあり、頬も少しだけ痩せこけていた。

一瞬だけ目が合って、驚いて露骨に目をそらしてしまった。

そんな私に気づいていない緩奈は先を歩いていく。


先輩から微かにタバコのにおいがした。
私と付き合ってからは一度も見たことないが、前は1日に何本か吸っていたということは知っている。

階段を登り切って非常口の扉を開けて中に入る。


「課長、どうしたのかな?」

「へ!?」

「何?そんなビックリしてどうしたの楓…」

「あ…いや……なんでもない…」

「ふーん…。」

「………。」

「…課長、何か具合悪そうだし、いつか倒れちゃうかもねー。まぁ、可愛い女の子が看病してくれるかも知れないけど。」

「そ…だね。」


緩奈の話がうまく耳に入っていかない。

考え事をしながら歩く私に何かが落ちる音が聞こえた。
今歩いて来た非常口の方からのような気がする。
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