課長と私

「あの…亮くんのご両親に会うまでには…体調、回復させておきます…!」

「うん。そうして。でも…無理はだめだよ。」


頷いてバスルームに入っていく。
浴槽につかり、一息つく。


「お母さんに電話しておかなきゃ…」


ついに家族への挨拶…
早々緊張してきた。

いつもより軽めにお風呂を済ませ、ベッドルームで携帯の画面に「実家」を表示させた。
正直特別なことが無い限り実家に戻ることが無い。
決して仲の悪い家族ではないが、連絡はマメではないのだ。


うーん…何て言おう…
いや、普通に遊びに行くよ!でいいのかな…


「あー、もういいや。考えるとますます緊張しちゃう。」


とりあえず通話ボタンを押す。
電話の先でコール音が2回鳴ると、すぐにお母さん出た。


「はいもしもし、須藤です。」

「も…もしもし?楓だけど…」

「あら楓~?どうしたの電話なんて!」

「あのね、近々そっちに顔だそうかなって思ってて…。」

「こっち来るの?柳瀬さんも一緒?それなら、ご馳走用意しておかなきゃ!」

「亮くんも行くけど…そんな気使わなくていいから!」

「いいじゃない、イケメンがせっかく来てくれるのに~」


表情を見なくても分かる。
電話の先で満面の笑みだ。


「もぉ…勝手にすれば!また行く日連絡するからね!よろしく。」


最後は逃げるように電話を切ってしまった。


まぁよし。
要件は伝えた。大丈夫。

…肝心なところは当日に


「楓ちゃん、実家に電話したの?」


バスルームから帰ってきた彼がベッドの端に座る。


「あ、はい…一応…お母さんが勝手に盛り上がっちゃって…」

「元気そうで何よりだよ。」

「亮くんが好きなんでしょうね…」


いや、イケメンが好きなのか…

彼の首に下がっているバスタオルをとって、まだ濡れている髪を拭く。


「風邪ひいちゃいますよ」

「…楓ちゃんにこうして欲しくてやってるんだけど、ダメ?」


バスタオルを持つ私の右手を掴み、濡れた前髪から顔を覗かせる。
不意打ちの上目遣いに爆弾が投下された。


「……あ、あざといです」

「ほら、拭いて拭いて」

「どこで覚えてきたんですか…」


少しだけ呆れつつ、両手を動かす。
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