課長と私

「こ…ども?あの頭の良い兄ちゃんが?できちゃった婚????」

「子供が出来たから結婚する訳じゃないけど。」

「タイミングが…ね。」


雅人くんの口が少しずつ閉まっていく。
今までの少しふざけた感じも無くなっていった。


「そっか…そっかそっか。俺もおじさんって訳か。……そっか。」

「おい…雅人?大丈夫か?」


私もびっくりしてしまった。
お調子者のように見えた彼からポツリと小さな涙がこぼれた。


「ごめっ…!俺……姉ちゃんの姿見てて……っ、俺…」

「雅人くん…」

「ずっと気遣ってくれてたのか…?」


隣にいた彼が雅人くんに歩み寄る。
ぐしゃっと短い髪を撫でた。


「ありがとな。」

「うっ……っうん。…良かった、ほんと…っ良かったぁ…」

「………あぁ。」


雅人くんも確かにこの家のDNAを受け継いでる。
優しさを受け継いでる。

涙が収まった彼は笑って部屋から出ていった。
今日1日だけでこの家族が本当に良い家族だと分かってしまった。

こんなにも仲間に入りたいと思った家族はないかもしれない。


「雅人…意外に大人だった…。」

「意外にって…。かっこいいじゃないですか、弟さん。」

「心移りしないでね?」

「しませんよ。…亮くんが好きですもん…。」

「…そ。じゃあ、さっきの続きしよ?」


そう言いながら頬に軽いキスを落とす。


「今度は邪魔されないようにね。」

「…はい。」


抱きしめられた長い腕に私も大きな背中に手をまわした。
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