体から堕ちる恋――それは、愛か否か、
「あの中だったら沖田優が一番、いけてるんだけどなあ、残念」と、由美が右手に持った包丁で優を指し、沼田が「家も金持ちだしな」と情報を追加した。

確か優の家は、通学路の途中にあった普通の町の花屋だった。

美弥の家でも花はいつも沖田花店で買っていた。

花屋ってそんなにもうかるんだったっけ。

不思議に思って「彼の家、お花屋さんだったよね?」と確認すると、「うん。俺らが子供の頃は小さな花屋だったけど、母ちゃんと弟がやり手でさあ。弟は新進気鋭のフラワーアーティストでホテルや舞台の飾りつけやイベントとかでひっぱりだこ。ルックスもいいからテレビでもしょっちゅう紹介されてるし、母ちゃんは『気運を運ぶ花選び』みたいなやつで本まで出して、沖田家は今じゃ全国に数百のショップとお花の学校を展開する企業家だよ」と説明してくれた。

実家の小さな花屋も、今では10階建てのビルになっているという。

優に弟がいたことも、初めて知った。

由美が「へえ~。弟いくつ? 私、沖田君の弟と付き合いたい」と、今度は沼田に包丁を向けた。

「いちいち包丁向けるのやめてくれよ。それも至近距離で……。沖田の弟は確かにすげえかっこいいんだけどさあ、俺が思うにゲイだと思うんだよね」

「まじ? もぉーーー! なんでいい男にはゲイが多いのよ!」

由美はまな板に体を戻し、だんだんだんだんだんだん、とすごい圧力でキャベツをぶった切っていった。
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