囚われロマンス~ツンデレ同期は一途な愛を隠せない~



勤めて三年目ともなれば、一通りの仕事はできるようになるから、まれに新入職員のコーチャーを任せられたりする事もあるらしい。

私の配属された支店の預金課には、私より先輩もいるし、本来ならその先輩がコーチャーをする予定だった。
けれど、その先輩、手塚先輩が『深月、やってみなよ。もうできるんじゃない?』なんて丸投げしてきたのをきっかけに、三年目にしてコーチャーデビューを果たす事になったのが二ヶ月前。

私よりも先に新人との挨拶を済ませた手塚先輩が『なんか今年の新人くん、面倒くさそうだし』とぼそりとこぼしていた時には、どういう意味だろうと思っていたけれど。

この二ヶ月で、その意味を思い知った。

「申し訳ありませんでした。以後、このような事がないよう注意致します」

深く頭を下げると、お客様はまだ不満そうなため息を落としたあと、コツコツと足音を響かせてお店を出て行った。
それを耳で聞いて確認してから、頭を上げて、隣で同じようにしていた大崎くんに「ちょっと裏きて」と小声で言った。

仕事をしながらも私と大崎くんに注目していた職員の目線が突き刺さるけど、気にしてなんていられない。

向けられているのは同情のまなざしだ。
哀れみの目に慣れてしまうなんて、なんて悲しいんだろうとも思うけど、それも今はどうでもいい。

まだお客様の残るロビーから見えないよう、奥にある給湯室までつかつかと歩き、そこで後ろを振り向いた。
そして、ロビーとこちら側を仕切るドアを閉めている大崎くんを待ち構えた。


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