囚われロマンス~ツンデレ同期は一途な愛を隠せない~


「俺、及川さんの噂、知ってます。恋人のいる女の人振り向かせて、でも手に入ったらすぐ捨てるみたいな、そういう事平気でする人だって。
さっき営業の人が言ってて、でも及川さん、それ聞いても否定しないで笑ってるだけでしたっ」

大崎くんの言葉に、送別会での事が脳裏に浮かぶ。
大崎くんが及川にビールを注ぎに行った時、もうひとり別の営業を入れて何か話してた時の事を。

大崎くんが言っているのは、多分その時の事だ。
及川はあの時、苦笑いを浮かべているだけで反論したりしていなかったから。

23時前のフロアは相変わらず静かだった。客間しかないし、もう就寝している人が多いのかもしれない。
大崎くんは、私の手を握る手にぐっと力を込めて続けた。

「普通、否定するハズなのに、何も言わずに笑ってるって事は、そういう事してるんだと思いますっ。
深月さん、そういうの知らないから……」
「知ってるよ」

遮るように言った私に、大崎くんは「え……」と驚いた表情で短い声をもらし、そのまま黙る。
大崎くんを見上げたまま……握られた手はそのままに、続けた。

「そんなの全部知ってる。同期として見てきたから」
「見てきたなら、なんで……っ」
「及川が、他の子にどんな事してきたかも、それがどんなひどい事だったかも、全部知ってる」

「それでも、好きなの」と、ハッキリと言うと、大崎くんは、まさか、とでも聞こえてきそうなほどに目を見開いて顔全部で驚きを表していたけれど……。

私が目を逸らさずにいたからか、次第に表情から驚きが消えていき……そのうちに、落ち着きを取り戻したようだった。


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