囚われロマンス~ツンデレ同期は一途な愛を隠せない~


「戻らねーの?」
「戻るけど……中の空気が怖いよね」
「結婚式まで話が進んでたからな」
「まぁ、一ヶ月も騒がせておけば収まるかな」

はぁ、とため息をつきながら戻ろうとした私の手を及川が掴むから、後ろにバランスを崩して転びそうになる。

転ばなかったのは、背中が及川の胸にぶつかって止まったからだけど……。
あの夜以来の至近距離に、思わず息を呑んだ。

「な、なに……」
「あんま放っとくのはマズイんじゃねーの?」

「え」と声を漏らした私を、及川はすぐ近くから見下ろしていた。

「想う事を許されてるって、大崎が勘違いしたらどうすんの?」

ぐって掴んだ肩を寄せられて、背中が及川に完全にくっつく。
低く響きのいい声を耳の近くから注ぎ込まれて、ぞくりとした感覚が背中を走った。

「あれから、三週間経つって知ってたか?」

後ろから抱き止められるようにして掴まれた肩が熱を持つ。
さっき、大崎くんにだって触られたのに……比べ物にならないくらいに心臓が騒ぐから、呼吸さえうまくできない。

まるで、溺れてるみたいな息苦しさに襲われた。

「忘れてって、言ったでしょ」

なんとか声にした言葉に、及川は黙って私を見つめていたけれど。
気付かないふりをして、「戻ろう」と、肩を掴んだままの手をそっとはがした。

『あれから三週間経つって知ってたか?』

……知らないハズがないじゃない。
心の中で呟いた言葉をグッと呑み込んでから席に戻った。



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