強引な彼との社内恋愛事情*2

「一幸」と、言うと、「うん」と言って、私の顎先を彼に向けさせた。


キスを誘導する手が、すごく好き。


そのまま、唇を重ねた。すごくすごく幸せだった。


普段、交わすキスだって好きだけど。


心が伝わったあとの、キスは、それ以上に意味を持つ気がする。


「千花さん。着崩れしてもいい?」と、囁く。


「えっ?」と聞き返すことなんか無意味で、胸元に手が触れた。


「あっ」と、声がもれたけど、どうしようもない。


「その声で、一幸って言って」と、甘い声が誘う。


「一幸」


ひとつの幸せか。


なんか、いい名前だな、と、好きな人の名前だって、どうにもこう、特別なんだろう。


帯に手をかけられて、ほどかれていく。


もう、着崩れなんて話じゃなくて。


甘い言葉と、唇の温度や湿度を分かち合うみたいに、何度も何度も重ねた。


好きを重ねるみたいに何度も。何度も。


本当はね、「彼氏?」と訊かれて「はい」って、はっきり言ってくれて、嬉しかった。


言いたいけど、今は、求めるだけで精一杯。
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