大きな河の流れるまちで〜番外編 虎太郎の逆襲〜
荷物を置いて、シャワーにまっすぐ向かう。4月から高校のサッカー部にから入ったので、汗だくだ。公立高校は部室にシャワーがないのだ。3月までは、迎えの車に乗る前に軽くシャワーした。あやめが汗臭いと嫌がるからだ。あやめは僕の部活が終わるまで、図書室で勉強しながら待っていた。電車で帰る、といった僕にどこで勉強しても同じだから。と言って。特に車の中で何を話すでもないのに変なヤツだ。
高校は公立に行く事にした。と言ったら、そう。とだけ、言って後は目を合わせようともしなかった。怒ったのかと思ったけど、ナナコには置いていかれたみたいな気がする。と言ったみたいだった。
リビングに入ると弟たちが、早めの夕飯を食べている。今日はハンバーグらしい。良い匂いがしていて、腹が鳴る。
「虎太郎、おかえり」とキッチンから声がする。虎太郎って呼ぶのはナナコだけだ。僕はナナコにうなずいて見せる。
「チビ虎は、いつから反抗期なのかなあ?返事もしなくなったんだ。」とリュウがナナコに大声で嬉しそうに聞いている。あいかわらず、、デリカシーの欠片もないヤツだ。
「俺のナナコを無視するとは、失礼なガキだな」と口の端を上げて、言いがかりをつける。ナナコが笑って、
「ちゃんと私にわかるようにうなずいてました。」と、リュウをたしなめる。僕は安心して、リュウを無視して、ソファーで髪を拭く。リュウは「ナナコは、チビ虎に甘過ぎるんじゃないの?」とキッチンに入って、ナナコを後ろから抱きしめ、ナナコの邪魔をしている。ほっそりして、茶色の瞳が可愛らしく、楽しそうに家にいる、あいかわらず、少女の様な佇まいのナナコは、室内着に明るい色のワンピースを着てエプロンを着けている。とても45歳を過ぎた女には見えないリュウの自慢の妻だ。リュウは若い頃からほとんど印象が変わらなくて、デカイ引き締まった身体をフルに使って、俺たち男兄弟を威嚇するこの家のボスだ。かなり、頭も良いヤツだっていうのは、最近知ったが、家の中では、誰よりも、手がかかる夫を演じて、ナナコの気を引いている。僕が
「ナナコ」と呼ぶと、リュウはやっと、喋ったとか、お母さんって呼べとかうるさい。(自分だって、母親のことをヨーコって呼ぶくせに)
「あやめが来るって言ってた。」と言うと、嬉しそうにうなずいて、あやめちゃんハンバーグはお豆腐の方かなと独り言をいい、準備をする。男どもにはガッツリハンバーグ、大人は少しヘルシー志向に。と夕飯は分けられていることが多い。あやめはこの頃、体型を気にして、ヘルシーを選ぶ。別にポッチャリになっても良いと思うのに、母ふたりがスタイルが良いので、ヒトリ娘のあやめは気にしているらしい。
僕は
「飯は?」とナナコに催促してみるが、あやめちゃんと一緒に食べて。と言われたので、諦めて、あやめに早く来いって、LINEする。
弟達は食事を終え、団子の様にもつれ合いながら、2階に上がって行く。かなり仲が良いヤツらだ。きっと、和室に置かれたテレビを戯れあいながら見るんだろうと思う。
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