…だけど、どうしても
夏 出逢い

1.



目を奪われた。
ほっそりとした真っ白い裸足が俺の目の前を足早に通り過ぎようとして、俺は反射的に目を上げて…だけど何気なくその姿を確認しようとしだけで、何も、見惚れるつもりなんかなかった。
美人な女なんかいくらだって見てきたし、いちいちのぼせたりはしない。


けれど。
その足と同じように、透けるように白い腕、うなじ…それから、さらりと風になびく長い髪。
華奢で、今にも消えてしまいそうなその女。俯いていて顔は見えない。だけど目が離せない。間違いなく美人だ、という確信はあった。だけど俺が目を離せなくなったのはそのせいなのか。わからない。

もっと、本能的な感覚。欲情に近い…身体を貫くその感覚に突き動かされて、俺は口を開いた。

「あんた…」

俺のその声より僅かに早く、彼女はびくりと肩を震わせて、通り過ぎたこちらを見た。
女にすれ違いがてら顔をまじまじと見られることには慣れている…が、彼女は俺を見る為に振り返ったわけではなかった。

そもそも、プールサイドを歩く彼女が、プールの水面から顔を覗かせている俺の姿を視界に入れることはよほど意識しない限りは無理なことだ。

期せずして見えたその顔は、どうという特徴的な顔立ちでは無かったが、やはりとても整っていて、そしてやはり、後ろのよく晴れた空までが透けて見えてしまいそうに、色素が薄かった。
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