…だけど、どうしても

3.


「何をしに来た?」

翌日は日曜日だった。黒田に迎えられて東倉の屋敷に入ると、花乃の父親が感情を押し殺した声でそう言った。その顔には疲労がありありと滲んでいた。

「今すぐ帰れ。」

「申し訳ありませんが、それはできません。花乃の部屋はどこですか。」

「2階の奥でございます。」

「黒田」

父親が咎めるが、黒田は落ち着いたものだった。ありがとう、と言って父親は黒田に任せ、俺は花乃の部屋へ向かった。

言われた通り、絨毯の敷かれた立派な階段を上り、2階に行く。
部屋はたくさんあったが、奥まで行くと迷うことはなかった。花乃と書かれた札がドアにかかっていたからだ。
そのドアをノックする。

「…はい。」

細く、掠れた声で返事があった。

「花乃、俺だ。開けろ」

「…紫苑?」

驚いた声についで弱々しい物音がして、ドアが開いた。

「どうして…」

久しぶりに焦がれた姿を見せたかと思うと、花乃はふらりと倒れかかってきた。
そのあまりにも軽い身体を抱きとめ、俺は思わず怒鳴った。

「馬鹿! 何やってんだ」

「…心配しないでって言ったのに。」

「何が元気だ。嘘ばっかりつきやがって。」

「元気よ。黒田から聞いたのね? 絶対知らせないでって言ったのに。」

「黙って見てられるわけないだろ。お母さんまで来たぞ。俺のところに」

「…本当に?」

俺は花乃を抱き上げ、目に入ったベッドにそっと運んだ。
部屋はそう広くはなく、花乃らしく綺麗に整っていて、簡素だった。
< 104 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop