…だけど、どうしても


まず食事だ、と言う俺に花乃は首を振った。

「お父様、居るでしょ? 今ならきっと話を聞いてくれるわ。一緒に来て。」

「その前にスープでもお粥でも何でもいいから食べてくれ。」

「駄目よ。何か食べたら顔色が良くなっちゃう。この姿で会うのがお父様には一番堪えるはずだから。今が好機よ。」

「おい…」

俺は呆れ返った。相変わらず強情で、驚くほど策士だ。

「お前は鬼か。」

「あら、目的の為なら多少手荒な真似をすることも厭わない姿勢は、紫苑から学んだのよ。」

「嘘つけ。それはお前の性分だ。俺がどれだけ振り回されたことか。」

何度も策に嵌り、逃げられかけ、黙らされ、惑わされた。
花乃はふふっと楽しそうに笑った。
今にも消えそうな姿をして、従順の皮を被っているくせに、とんでもない女だ。父親に同情した。

「貴方に守られるばかりじゃなく、私もちゃんと戦いたいの。」

痩けた頬が少しだけ赤みを取り戻している。両目はきらきらと輝いていた。策士な上に勝負師らしい。俺の知らない花乃がきっとまだまだたくさん居るのだ。

「出陣よ。見てて、今度は私がお父様に啖呵を切る番だから。」

「啖呵って…穏やかじゃないな…」

「あら、それを紫苑が言うの?」

「はいはい、まったく、一人じゃ立つのもやっとなくせに。お手を、姫」

俺は立ち上がって手を差し伸べた。
花乃はくすくす笑いながら細い手でそれを取り、立ち上がった。

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