…だけど、どうしても

2.


「お見合いを、迫られてて…」

彼女は俯きがちな性格らしかった。
怯えているという印象は与えてこないが、目はいつも伏せ気味で、長い睫毛が濃い影を落としている。

この天気だ、薄い生地の服くらいすぐ乾くよ、と俺はふらつく彼女を支えながら、プールサイドのパラソルの下に引き入れ、椅子に座らせ、休ませていた。

「いずれ、こうなるっていうことはわかってたから、このホテルまで来たし、覚悟はしていたつもりなのに…
なんだか自分でもよくわからないうちに、逃げ出しちゃって。」

そう言って彼女は自嘲の笑みを溢す。俺は、彼女をじっと見つめたり、目を逸らしたり、忙しかった。
けれど、普段何か作業をしながらでも飛び込んでくる声に指示を飛ばす多忙な仕事に俺の耳は知らぬ間に鍛えられていたらしく、彼女の話は残らず頭に入ってきていた。

「よかった、助けて。見合いなんかされたらたまらない。」

俺の言葉に彼女は顔を上げて、曖昧に微笑んだ。

「13時からだったの。きっと今頃大変なことになってる。…悪いことしちゃった。」

誰に対して、なのか。それをはっきりとは言わず、彼女は出入り口の扉の脇にかかっている時計をぼんやり眺めた。
時計の針は14時を回っていた。
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