…だけど、どうしても

二人揃うと誰を刺激するかも知れないのだが、まあ時効だろ、などと高木はうそぶいている。
会社に入ってからも、俺の代理であちこち顔を出していることは知っていたが、こうして間近で見ると、高木は目を見張るほどこういう場にしっくりくる男になっていた。
元々良かったガタイに上等のスーツを身に纏い、眼光は抜け目なく、笑顔はそつなく…いかにも胡散臭い、と思うのは俺だけかもしれないが、とにかく何か奴の中に一つ新たなスイッチが形成されて、こういう場でそれが入るようになっていることを、俺は初めて目の当たりにした。

「なーに笑ってんだよ、お前は。」

「いや、いい犬、育ってんなと思って。」

高木は一瞬まばたきを止めたが、すぐに俺の言わんとしてることを察するとにやりと笑った。

「フン。まだまだこれから。」

「何がだよ。荒らすなよ。」

「おとなしくしてますよ。ご主人が待てっていうならさ。」

「永遠に待て。」

「この野郎、自分はいい思いしてるくせに。」

高木はポストや権力に興味を示さない野心家だ。
自分の力でどこまでのことをやれるのか、試したくてうずうずしている。俺にとって高木が最も使える駒の一つであるのと同じように、奴にとって俺は、本来社会で地道に一段ずつ登っていかなければならないステップを一気に駆け上り、早く好き勝手動けるようになる為の駒に過ぎない。
俺達は早くから利害の一致を確信した。友情は後付けだった。だが、他人を心底信用しない俺達にとっては、その友情の築き方は、心地良かった。

若い時代を思い出して、高木と俺は高笑いしながら会場に足を踏み入れた。
あの頃から変わらず、一斉に降り注がれる視線など、痛くも痒くもない。
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