…だけど、どうしても

2.


芹沢家の方々には思いの外歓迎して頂いて、私は恐縮しっぱなしだった。
家族が揃うといっても、一族勢揃いというわけでもなくて、芹沢コーポレーションの現社長である紫苑のお祖父様、奥様であり紫苑のお祖母様、それから紫苑のご両親の四人が私達を待ってくれていた。

特に紫苑のお母様は、不良息子に恋人を紹介してもらえる日がくるなんて、とちょっと大袈裟なほど喜んで下さった。

「親族会みたいな大きいのはまた別にあるのよ。東倉の大事なお嬢さんをそんな場所に放り込むわけにはいかないって、紫苑が言うからね。まあ、そういうのは結婚してからでいいわね。」

結、婚。
その二文字にたじろいでいると、すかさず紫苑が割り込んできた。

「母さん、花乃はまだ学生だ。そんな話は気が早すぎるよ。」

「あら、だってあなただってそのつもりがあるから連れてきたんでしょう。真面目なお付き合いなのよね?」

「だから…そういうのはこっちの都合だから。花乃に変な負担かけるな。」

「そんな、まさか、紫苑から相手の都合を思いやる言葉を聞けるなんて…」

お母様がコミカルに泣き真似をして、紫苑は顔をしかめている。
私は中途半端に笑うことしかできなかった。結婚、なんて。紫苑とできたら、もちろん、嬉しいけれど、私は…

「わしは紫苑がしたいというなら、東倉の娘でも一向に構わんぞ。」

たぶん、ずっと見られていた。その鋭い眼光は、私の後ろめたさを見抜いている。
紫苑は、顔立ちはご両親から良い所を抜き取ったみたいにどちらにも似ていたけれど、持っている雰囲気…特に油断の無い眼差しは、そう言ったお祖父様に一番近いものを感じさせる。
< 77 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop