…だけど、どうしても


タクシーの中ではほとんど無言で、花乃は俺の肩に頭を預け、目を閉じていた。
呼吸は落ち着いている。場合によってはこのまま医者に連れて行こうかとも思ったが、当面は大丈夫そうだった。

安心したような花乃の顔に、こんな時でも満たされてしまう。
俺が守るから。
マンションにつくまで、俺は花乃の華奢な肩を抱いていた。

部屋に入るとまず花乃をソファに座らせた。

「何か飲むか?」

「あの、じゃあ、お湯が欲しい。ありがとう。」

俺は頷いてキッチンに行き、お湯を沸かし、自分のマグカップにはティーバッグを入れ、花乃のマグカップにそのままお湯を注ぎ、花乃に差し出した。

花乃はそれをゆっくりと飲む。隣に腰掛けて俺もカップを口に運ぶ。花乃の頬に血の気が挿してきて、俺はようやくほっと息をついた。

「大丈夫か?」

「うん、ごめんなさい。もう大丈夫。紫苑のおかげ。」

「…あの男…」

ためらいながら俺が聞こうとすると、花乃がそっと俺の手に触れた。
マグカップをローテーブルに置く。それから俺の手からもマグカップを取り上げ、その隣に置いた。

黙って見ている俺を見つめてから、ふいに首の後ろに両腕を回し、抱きついてきた。わけがわからずも、俺はその背を抱きしめ返してやる。
花乃が身体を離し、また困惑した俺の顔を見つめると、そっとキスをしてきた。それから耳元で囁く。

「…今日は抱いてくれないの?」

俺は耳を疑う。

「お前、何言ってるんだ。そんな…」

花乃は無視して膝立ちになり、俺の頬を撫で、首筋を撫でてくる。
おかしい。花乃は絶対に、何かおかしい。
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