…だけど、どうしても
「どうした、花乃…」
呟くように問いかけても、花乃は首を傾げるだけで、何も言わない。花乃にこんな一面があるなんて思いもしなかった。こんな、小悪魔みたいな…
「触ってくれないの?」
花乃が俺のうなじに唇を触れながら囁く。肌が粟立つ。吐き出したばかりの欲望がまた頭をもたげ始める。その肌に触れることなく一回果てたからといって、俺が満足できるわけがないことを、見越しているのだ。
花乃にこうして誘惑されることを、夢見たことがないではなかった。だが、何故、今こんな時に。
「ねえ…」
自制するので精一杯の俺を煽るように花乃は再びあちこちに触れ始め、舐め、耳に唇を寄せそう言い、耳たぶを甘く噛んでくる。
「っ、花乃、体調…」
「平気だから。本当に。」
膝を折り、俺の身体の上に座った花乃の身体がぴったりと密着してきて、柔らかな胸が押しつけられる。ほとんど意識の外で上げた腕に、しなる腰が納まった。ついその曲線を手で辿ってしまう。
抱きたい。地獄だった。愛している女が、こうまでして自分を求めてくる。だけど抱くべきじゃない。絶対に。
だけど、ダメ押しで、花乃が耳元でおそろしく色っぽい声で囁いた。
「抱いて、紫苑…」
ああ、何故、いたわることさえ、させてくれないのか。
俺は花乃を見上げ、手を伸ばし首の後ろを掴んで引き寄せると、噛みつくようにキスをして、結局、罠に落ちた。