恋した責任、取ってください。
 
けれど大地さんは、そう言ってにっこりと笑顔を作る。

自然に笑っているようで、やっぱりどこかぎこちない笑顔は、お盆休み明けから少しずつ見るようになり、シーズン開幕が近づいてくるにつれて頻度が上がり、思えばファイヤー・ホーネットとの試合が迫ってきたという先週の試合の中でも、ファウルなんかでプレーが止まったりハーフタイムのときなど、ふっと気が抜ける瞬間にたびたびそんな顔を見るようになっていたような気がする。


目の前で試合が行われているのに、まして自分は不動のセンターだというのに、まるで地に足がついていない状態の大地さんに、みんな気づいていないわけではないだろう。

応援席で試合の行方を見守っている私でさえ、いつもと違う大地さんの様子にすぐに気づいたのだから、コーチや一緒にプレーするチームのみんなが気づかないわけがない。

佐藤さんなんて、チームメイトなのに大地さんにフローズンアイをビシバシ発動していて、遠目から見てもものすごく怖かった。

ちなみに、そういうときの佐藤さんは、スリーポイントシュートの成功率がべらぼうに高い。

そのおかげもあってチームは快勝続きではあるんだけど、こと大地さんに関しては、あまりいい予感がしないというのが、シーズンが開幕してからの暗黙のネックになっている。


「……で、ですよね、燃えるスズメバチなんて超怖いですもんね。スズメバチだけでも怖いのに、それが燃えながら襲い掛かってくるんですもん、ナイーブにだってなりますよね」

「うん、まあ、本物のスズメバチと炎に置き換えてみてもゾッとするよね」

「……はい、めっちゃしますね」


どうやらリアルに想像しすぎたみたいで、ふたりではははと渇いた笑い声を出し、燃えながら襲い掛かってくるスズメバチを頭の中から追いやる。

現実的に考えて炎に包まれながら飛べるのか謎だけど、スズメバチ単体でも泣くほど怖いのは言うまでもない。
 
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